世界中で遊ばれているアナログTCG、『ファイナルファンタジートレーディングカードゲーム(FF-TCG)』には、ファイナルファンタジーシリーズからたくさんのキャラクターやモンスターが登場しています。懐かしいイラストがカードになって登場している一方で、実は、『FF-TCG』のために描き下ろされたオリジナルのイラストが多数収録されています!
本特集では、収録されているイラストをイラストレーターへのインタビューを織り交ぜながらご紹介します。さらに、イラストの一部を壁紙としてFFポータルアプリにて配信いたします!
描き下ろしイラスト紹介&インタビュー
『FF-TCG』向けに『ファイナルファンタジーXII』の描き下ろしを担当されている上国料勇氏に、今回の描き下ろしについてお話を伺いました。
上国料勇プロフィール:
FFシリーズでは「ファイナルファンタジーXIII」シリーズ3作でアートディレクターを務め、『ファイナルファンタジーX』や『ファイナルファンタジーXII』『ファイナルファンタジーXV』にも携わる。現在はフリーで活動中で、2018年には一休さんゆかりの寺「大徳寺真珠庵(しんじゅあん)」(京都市北区)にて、400年ぶりとなる襖絵制作も手掛ける。
―まず上国料さんご自身のことについて、伺えたらと思います。これまでのお仕事について教えていただけますでしょうか。
上国料:スクウェア・エニックスには最初はアルバイトとして入ったのですが、その時ちょうど『ファイナルファンタジーX』のプロジェクトが立ち上がったところだったのでそこのアートチームに配属され、背景アートを担当しました。アートをやりながらデータの監修をするような形で、背景のモデルテクスチャに手を入れてきれいに仕上げていく、ということをやっていました。『FFX』が終わると次は『ファイナルファンタジーXII』のチームに配属され、引き続き背景アートに関わっていたのですが、開発の途中から背景のアートディレクターとして背景全般を任されることになりました。その『FFXII』の開発も8割くらい終わったところで、今度は『ファイナルファンタジーXIII』のチームに来てアートディレクターをやって欲しい、とプロデューサーの北瀬佳範さんからお声がけがありました。その流れで『ファイナルファンタジーXIII-2』、『ライトニング リターンズ ファイナルファンタジーXIII』と立て続けにアートディレクターを務めました。その後は『ファイナルファンタジーXV』ですね。途中で『ザ・サード バースデイ』のお手伝いもしつつで、『FFXV』の発売を見届けて、スクウェア・エニックスを退社することになりました。現在はフリーで活動していますが、同社からのお仕事は退職後も色々といただいています。
―なるほど、スクウェア・エニックスではアートディレクションをメインにやられてきたのですね。
上国料:そうですね、ただスクウェア・エニックスでのアートディレクションはリードアーティストが兼任してやることが多いです。なのでキービジュアルのような絵も描いてアートディレクションもやる、という非常に重たい仕事になります。一つ一つの要素に対してまずデザイン画を描いて、モデルの監修をして、ゲーム画面でも確認をして、と膨大な作業量です。
―様々な作品に携わられていますが、その中で印象的だったタイトルはどれでしょうか?
上国料:関わったタイトルはそれぞれ思い入れがあるので選ぶのは難しいのですが、『FFX』は僕のキャリアの最初のお仕事だったので大変なこともたくさんありましたし、勉強にもなりました。『FFXII』は松野泰己さんをはじめとして、伝説的なクリエイター達が関わっていた作品でした。アートディレクターが何人もいるような体制で、僕自身は彼らに引っ張られるような形でやっていました。
でも一番思い出深いのは、その次の『FFXIII』ですね。『FFX』や『FFXII』でお世話になったアートディレクターの方々がみんなそれぞれのチームに離れたタイミングで、僕ひとりでアートディレクションをやることになったんです。とにかくプレッシャーが大きくて、どうやったらこの連綿と続くFFの歴史やブランドを壊さずに次に繋げていけるのか、“できない”ということは許さない、絶対に成し遂げねばならないと思って挑みました。アートスタッフは新人が多くて大変なこともたくさんありましたが、結果的には今までにないものを作ることができ、自分の責任で新しいFFをやり遂げられたので一番思い入れが深いです。
―確かに、『FFXIII』の世界観はそれまでのFFからがらっと変わりましたよね。どういった着想からあの世界観が生み出されたのでしょうか?
上国料:SFっぽくしないかという話は最初からありました。まずコンペ形式のように、プロジェクトに所属するデザイン職の人は職種関係なく、自由に絵を描いてみてくださいという段階がありました。そういう期間が取れるというのは大きなプロジェクトならではですよね。その中で良いアイディアを拾いつつ、個々の得意分野も見極められて、その時担当している仕事以外にも才能がある可能性もあるので、そういったところを掘り下げてみることができたのは良かったです。FFという個性の強いオリジナルの世界観を作ることが課せられている状況で、“今までにないものを生み出してヒットさせる”ということのためには、最初の段階で既存の考え方やスタイルを捨てることも必要だと思うので、『FFXIII』でそれができたのはすごく意味があったと思います。
―昔のインタビュー記事を拝見しまして、ご自身を絵描きでもなくイラストレーターでもない技術職、とおっしゃっていました。上国料さんの考える、ゲーム制作におけるアートチームの役割とは何でしょうか?
上国料:この世にないものをあるように見せる、要するにペテンなんですよね。嘘を本当のように信じさせると言いますか。そして、その最初の相手はチーム内のスタッフです。彼らをその気にさせる、これを作りたいと思わせることができたら、そのイメージをどんどん形にしていってくれます。最初は全く理解してもらえないところから始まって段々特徴をわかってもらい、最終的には僕のチェックなしでも大丈夫だと思う、というものをスタッフが作ってくれるようになります。そこまでには結構な時間が必要でしたし、そのために僕は自分が作った世界観を理解してもらうべく、設定を考えたり絵を描いたりとひたすら材料を準備しました。
▲『FFXIII』“聖府首都エデン”全景イメージ
“カッコいい”だとか“綺麗な”絵は見ていて確かに良いですが、本当はそんなことは些末なことで、想いが伝わることが一番大事だと思っています。誰かが描いた絵を見てテクニックを学ぶことはできても、そのテクニックに絵の本質があるわけではない。自分が絵を通して伝えたいことは何なのか、それを誰に届けたいのかを考えることが重要で、それは絵の中に何を作ろうとしているのかという事に結び付くと思うんです。こうした意味で、我々は絵描きでもなくイラストレーターでもなく、クリエイターなんだという話をしていました。
―今回描き下ろしをされた『FFXII』のイラストですが、どういったオーダーだったのでしょうか。また、『FFXII』のキャラクターの描き下ろしは久々だったのでしょうか。
上国料:今回ジャッジ・ガブラス、パンネロそしてアーシェ(※)の3体を描きましたが、ゲームの宣伝用のイラストや設定画とは異なるテイストでお願いしたい、というオーダーでした。『FFXII』のキャラクターを描くのはもちろん久しぶりでしたし、そもそも『FFXII』の時にはイラスト系はほとんど吉田明彦さんか皆葉英夫さんが描かれていたので、実際に自分が開発中にイラストを描く機会は一回だけでした。
※7月に発売予定の「Opus XII クリスタルの目覚め(Crystal Awakening)」のパッケージとして公開されている
―なにか3枚のイラストで統一のテーマや、カードになるということで意識した点などはあったのでしょうか?
上国料:最初の打ち合わせで、今までに自分が描いていないような描き方、新しいものに挑戦して欲しいと言われました。これまでの描き下ろしも、普段可愛い絵を描く方やリアルな絵を描く方などが、その真逆のものに挑戦しているというお話を聞いて面白い試みだと思いました。ただ、僕が可愛らしい絵を描いても誰も喜ばないだろうなとは思いました(笑)。そこで色々考えた結果、CGっぽくない手書き風の絵を描くことにしました。
あとは今回キャラのイラストを描くにあたって元のイラストも参考にはしていますが、一番お客さんが目にしているのはゲーム画面なので、それがみんなの中にあるイメージに近いだろうということで印象的にもデザイン的にも、メインで参考にするのは実機の3Dモデルデータにしています。
ジャッジ・ガブラスは油彩のイメージで描いていて、自分のアナログ作品をスキャンしてテクスチャに使ったりしてアナログ感を出しています。こういう感じが『FFXII』の世界観にも合うのかなと感じています。『FFXII』は海外にもファンが多いので、今回のイラストに対して色々な国の方からメッセージをいただきました。そもそもジャッジ・ガブラスはイラストがあまり存在しないですし、複雑なデザインで描くのも難しいです。吉田さん特有の入り組んだ立体のデザインを捉えるのは大変ですが、今回のイラストのようにポイントさえ押さえればちゃんとガブラスに見えますよね。
パンネロもその延長で、油彩っぽい雰囲気でやってみました。今回作風だけでなく、キャラクターの印象についても見たことがないようなものが欲しいと言われたので、パンネロはゲームの中では主人公ヴァンの横で明るく元気に振舞っていますが、その印象とは違った、愁いを秘めたような表情を描きました。構図もカードイラストとしてはもっと引いた方が良いのかも、と思いつつもアップで切り抜いています。背景も浮世絵のような感じで平面的に入れてみたりしました。
―実際にカードになったものをご覧になっていかがでしょうか?(実物を一緒に見ながら)
上国料:いいですねえ。自分でいうのも何ですが、特にパンネロは髪や肌の色も実機のモデルに近づけているので、オリジナルの印象を維持しつつ、よりリアルになるとこうなる、というのを感じてもらえるのではないかと思います。ゲーム機もスペックが上がっていってこのくらいのものが動くようになったら面白いなあと思います。
―今回の描き下ろしにあたり苦労した点はありましたか?
上国料:自分はもうスクウェア・エニックスの社員ではないのですが、今回のイラストを描く以上ファンにとっては公式の人間になるわけです。公式の人間が描いたものだとするとこれくらいのクオリティはないと、というハードルがあって、それを軽く飛び越えていく必要があるんですよね(笑)。『FFXII』や吉田さんのキャラクターデザインを汚すわけにはいかない、という思いでプレッシャーがすごかったです。
―そんなプレッシャーがあったのですね!今回『FFXII』の原作、特に実機上のモデルを参考に描いたということでしたが、ご自身の作風に寄せる選択肢はなかったのでしょうか?
上国料:これは僕の考え方なのですが、それをやっていいのは吉田さんだけなんですよね。そのキャラクターの生みの親であれば自由にいじってよいと思いますが、あくまで預かりものなので勝手には変えられないですし、そこまでやっていいとは思わないですね。
―現在はフリーで活動されていますが、スクウェア・エニックス時代と変わったことは何でしょうか?
上国料:会社員の時は、個々の役割が明確ですよね。本当は意識しないといけないのでしょうが、クリエイター個々人が予算のことをずっと考えるようなことはないですし、ただ良いものを作るという一点にのみ集中できます。すべてのスタッフが全体のことを理解してやっていくべきという考え方もあると思いますが、得意不得意で分業して個人ではできないものを成し遂げていく、というのは会社ならではですよね。自分も会社員の時代は、良いものを作ればそれで勝ち、最後に利益を出せばOKと割り切って、納得がいくまでこだわりを貫こうと考えていたところはあります。
でもフリーになるとすべてが自分に跳ね返ってくるので、そういったやり方はできないですよね。例えば4社からお仕事の依頼があって、そのうちのひとつがすごく面白いからそれだけやります、というのはもちろん許されないです。会社員の時代は時間や作業内容が調整可能なのがメリットだと思います。自分の体調が優れない、となったら他の人がフォローしてくれる、みんなで支えあってピースを入れ替えてなんとかする、というのは組織ならではの強みですよね。フリーになってからは、理性を持って自分をコントロールすることが必要になりました。一般的なイメージだと会社員はしっかりしていて、フリーは自由と思われがちなんですが、実際は逆なんだなと感じました。好きな絵を自由に描きたいのであればぜひ会社員をオススメします、経験をたくさん積んでもういいかな、と思ったらフリーになっても良いかと(笑)。
―過去のインタビューでご自身の線画は『FFXII』の時がピーク、といったようなお話をされていましたが…。
上国料:肉体的なピークは間違いなく『FFXII』の時で、目もだいぶ悪くなってしまってその頃の自分の絵を見ても、もう見えないところが結構あります。一昨年個展をやった際に、とあるお客さんが「絵がよく見えない」とのことで虫眼鏡を持参して、そのまま寄贈してくださったんですよ。会期中ずっとその虫眼鏡が大活躍で、みんなで使っていました。今は僕の家にあります。伝説の虫眼鏡ですね(笑)。そんな感じで、『FFXII』の頃が一番細かい絵を描けていたなという自覚はありますね。最近はデジタルだけで描いていたんですが、鉛筆でも描かないとだめだなーと思ってまた始めています。ただ見えないので、なんとなく予測で描いています。それをスキャンしてPCで開いてみるとひどい有様になっているんですが(笑)。それでも鉛筆描きのスキルを復活させていかないとと思ってチャレンジしています。
―上国料さんといえば、世界観のイメージアートを描かれている印象が強いですが、人物と風景を描くのはどちらがお好きなのでしょうか?
上国料:これはもう、絶対に世界観ですね。人物はロジックでは描けないと思っていて、良い絵を描く人は解析不能なんです。その人が3分で描いてもめちゃくちゃ上手いんですよ。ロジックでは解けないと言いますか、僕はロジックで解ける問題しか興味がないというと語弊があるかもしれませんが、ひたすらルールや理屈で描くんですよね。建築もそうだと思いますが、背景だと例えば柱をここに足すと、角度を調節するともっと美しくなる、という風に非常にロジカルです。キャラクターの絵はその範疇には収まらないので、その才能のない自分は非常に切ない気持ちです。そのぶん良いキャラクターを描く人には尊敬の念がありますし、反面で強い畏怖があります(笑)。
―今後、描き下ろしてみたいシリーズやキャラがいたら教えてください。
上国料:好きなキャラで言うと、やはり『FFXIII』のライトニングですね。イラストとしての仕事は少ないですが、宣伝用の絵やポスター用の絵などで一番たくさん描いたキャラでもあります。ライトニングについては野村さんから任せていただいていたと勝手に思っています、毎回構図やポーズを考えさせていただいていて、あまり突っ込みも入らなかったので(笑)。野村哲也さんがキャラクターデザインをしたライトニングを世の中に届けるためのものをたくさん作らせていただいたので、とても思い入れはあります。もしライトニングの描き下ろしを頼まれたら嬉しいですね。『FFX』のユウナもすごく良いキャラだと思っています、絵になるといいますか、衣装も和装というか着物のようなデザインに衝撃を受けましたし、野村さんのキャラクターデザインのすごさを感じましたね。誰も想像できないようなものなのにすごく納得感があって、他の誰にもできないデザインでした。
―上国料さん描き下ろしのライトニング、いつか見てみたいです!本日はありがとうございました。
▼バックナンバー
第1回:松田俊孝
第2回:伊藤龍馬
第3回:板鼻利幸
第4回:ロベルト・フェラーリ
第5回:小池紅美子
第6回:オグロアキラ
第7回:泉沢康久
第8回:齋藤茜
「パンネロ」壁紙追加!
上国料勇氏描き下ろしの「パンネロ」が壁紙になりました!
FFポータルアプリにて配信中です。
■デジタルコンテンツ(壁紙)
- アイテム名 : 描き下ろしイラスト『パンネロ』壁紙
- 交換条件 : (有効期限内)何度でも
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ファイナルファンタジーシリーズに登場するキャラクターや召喚獣を駆使して、1対1で対戦するカードゲーム。お馴染みのキャラクターのカードを集めるコレクションとしての要素だけでなく、ルールはシンプルながら奥の深いゲーム性による、カードゲームとしての面白さが最大の魅力。
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