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  • 2020.09.30

『ファイナルファンタジーVII リメイク』ローカライズチームインタビュー!


本日9月30日は「国際翻訳デー(International Translation Day)」。
好評発売中の『ファイナルファンタジーVII リメイク』も世界中で遊んでもらうため、様々な言語に対応しています。

今回はこの中からローカライズプロジェクトマネージャーおよび英語、フランス語、ドイツ語のローカライズを担当したスタッフにお話をお伺いしました。言語だけでなく、各地域の文化に合わせて言葉を選ぶローカライズの奥深さ、ぜひご一読ください!

【回答者】
- Ben Sabin(ベン・セイビン/英語翻訳者)
- Laurent Sautière(ローラン・ソチエル/仏語翻訳者)
- Diana Kawamata(川又ディアナ/独語翻訳者)
- 上田訓子(ローカライズプロジェクトマネージャー)

●『FFVII リメイク』の開発にローカライズチームはどの段階から携わっていましたか?また、どのような体制であたっていたのでしょうか?

上田訓子(ローカライズPM):
最初のトレーラーが発表された2015年から携わってきました。
社内と外注の翻訳者とローカライズ全体を取りまとめるローカライズPMでチームは構成されていました。

●リメイク作品ならではのチャレンジはありましたか?

ベン・セイビン(英語翻訳者):
原作からの変更点がある中、当時から進化したローカライズの基準を踏まえつつも、原作の翻訳に対するファンの期待に応えられるようにバランスを取るのが難しかったです。またファンにはそれぞれが理想と考える独自の翻訳があるため、どうしてもすべての方を満足させることはできないという事実を理解する必要がありました。

ローラン・ソチエル(仏語翻訳者):
『FFVII』は広大な世界観をもち、多くの人から愛されているゲームなのでリメイクへの期待が非常に高かったです。なので、オリジナルに忠実であり続けることと、必要な変更を加えることのバランスをとるのが大変でした。

川又ディアナ(独語翻訳者):
世界中のプレイヤーに愛されているゲームのリメイクなので、ファンが「懐かしい」と感じるオリジナル版の翻訳のエッセンスを残しながら今日のローカライズのクオリティへの期待に応え、新しい環境(例えばオリジナル版にはなかったボイスが追加になった)に柔軟に対応するのはこのリメイクならではのチャレンジだったと思います。

●ただ文字にするのではなく、今回は声になる台本でしたね。それも配慮したローカライズにはどのようなチャレンジがあったのでしょうか?

ベン・セイビン(英語翻訳者):
基本的にボイス収録においては、翻訳言語のセリフの長さは日本語との誤差0.2秒以内に収めなければならないという決まりがあります。そのため、原文に対して最適と思える翻訳でも日本語より短すぎたり長すぎたりすると使用できません。さらに、誤差0.2秒以内をクリアしてもそのセリフが次のセリフに被らないよう注意して確認する必要があります。特にこのプロジェクトでは多数のキャラクターを同時に収録していましたが、特定のシーンの1キャラクターのセリフが、収録中の他キャラクターと必ずしも同じ記録媒体に保存されているわけではなかったため、被りのチェックが難しかっただけでなく、同じシーンに登場する各キャラクターの感情がうまくかみ合っているよう確認するのが大変でした。また、キャラクターの顔と体のモーションに一致するようにセリフを構成するのも一苦労です。たとえばエアリスが4秒のセリフを発話中に3.5秒あたりでうなずいた場合、うなずいた箇所の言葉が少し強調されるように調整しつつ、強調されても不自然ではない言葉を選ぶ必要がありました。シーン全体のトーンの一貫性もチェックする必要があります。あるセリフを完璧に用意できたと思っても、シーン全体の文脈で確認するとむしろひどく聞こえる場合もあります。また、声優さんにはそれぞれの発声ペースがあり、それが翻訳者の発声ペースと一致することはまずないので、セリフが完璧な長さだと思っても、キャラクターが実際にその文章を発声するときにスタジオ内での再調整が必要な場合もあります。要はボイスが入っているゲームの場合は、翻訳で考慮しなければならない点がとてもたくさんある、ということですね。

ローラン・ソチエル(仏語翻訳者):
ゲームの日本語ボイスをフランス語ボイスに翻訳するのはとても大変な作業です。たいていの場合、フランス語の翻訳や収録中の段階ではカットシーンは未完成のため、シーンの文脈やモーション、特に重要となる唇の動きなどの数多くの要素が未確定の状態です。セリフの最初と最後の細かいタイミングをきっちり合わせる必要があるだけでなく、フランス語版の場合(ボイスに合わせ唇の動きが修正される英語版とは対照的に)、まだできていない日本語版の唇の動きを想像してそれに一致させる必要がありました。また、日本語版のボイスは演出効果を出すために言葉の間に意味深長な”間”が多く使われる傾向がありますが、これも考慮する必要があります。この”間”はフランス語では非常に不自然に聞こえるので、日本語版で2つの”間”を含む文章がある場合、フランス語版ではだいたい3つの短い文を作成するか、ポーズしてもあまり違和感のない言葉を探します。

川又ディアナ(独語翻訳者):
日本語の尺に合わせる必要性があったのは一番大きなチャレンジでした。日本語とドイツ語では文法と口の動かし方が異なりますので、尺に合わせながらも日本語のセリフの意図を的確かつ確実に伝え、かつ自然なドイツ語に訳すべく、かなり創造力を働かせて作業する必要性がありました。


▲喋っているキャラクターの動きやセリフの“間”も考慮して翻訳する必要がある。ボイス収録中に現場でテキストを調整することも


●他のプロジェクトと比べて違ったところはありましたか?

ベン・セイビン(英語翻訳者):
音声収録で使用したカットシーンのクオリティが高く、また翻訳中にゲーム内でほとんどのカットシーンを確認できたため、可能な限り状況にあったセリフを収録することが出来ました。また収録中はたびたび、声優さんが自身の役について喜んでいる様子を見られて良かったです。このゲームは非常に多くの人にとって特別なものであり、プログラマーから声優さんまで、誰もが本当に興奮し、常に全力を注ぎこんでいました。今後再び、こんなに多くの人からこのレベルの情熱が見られるかはわかりません。

ローラン・ソチエル(仏語翻訳者):
スケジュールがとても厳しかったので多くのスタッフがプロジェクトに参加し、締め切りに間に合わせるために多くのタスクを平行して作業する必要がありました。この規模のプロジェクトでは通常1言語ごとに2〜3人の翻訳者がいますが、今回は最大同時に6人ほどおり、翻訳の一貫性を保つのがとても大変でした。日本語音声の小さい変更ひとつでも、フランス語音声では複数のセリフに影響する大きな変更になってしまうこともありました。再収録する際もスケジュールの制約により再収録できるボイス数に制限があったため、思い切った選択を行わなければなりませんでした。

川又ディアナ(独語翻訳者):
このプロジェクトにドイツ語の音声があるということです。私が関ったプロジェクトでドイツ語の音声があるのは初めてでした。

●『FFVII リメイク』に限る話ではないのですが、『FFVII』の世界には特殊な用語が沢山あるかと思います。そのようなゲームの世界へローカライズチームとしてどうやって立ち向かっていたのでしょうか?また特に苦戦した用語はありますか?

川又ディアナ(独語翻訳者):
オリジナル版と『クライシス コア -ファイナルファンタジーVII-』をはじめ『FFVII』世界の用語をなるべく活かすことに配慮しましたが、同時にリメイク版の中でそのまま使って問題ないかどうかを確認する必要もありました。例えばバトルシステムがオリジナル版と異なりますので、その変わった環境に対して必要だと感じた場合には変更を行いました。

●最新の翻訳技術で立ち向かった今回のプロジェクトだったと思いますが、『FFVII リメイク』でいうとここ最近ローカライズという仕事はどう進化しているのでしょうか?

ベン・セイビン(英語翻訳者):
昔のローカライズは、翻訳者がゲームのテキストファイルを渡され、ただそれを訳すよう言われたものでした。
現在、私たちが翻訳するタイトルの多くはシナリオライターやプログラマーと同じ社内環境にいる翻訳者によって訳されています 。これにより翻訳者と開発者間でより自由なやり取りが出来るだけでなく、ローカライズチームがプロジェクト全体に関与できる機会が増えます。たとえば本作内では英語で歌われた曲がいくつかありましたが、ディレクターが書いた歌詞を英語に翻訳する(+なぜその訳にしたかの説明をつけながら)タスクがありました。また、開発と協力して本作の日本語版と英語版でロケーション名を統一する作業もありました。最終的にそれぞれ別の用語を使用した場合でも、関係者間で情報共有が出来ていました。このレベルでの協力は初期のゲーム翻訳にはなかったことだと思います。

ローラン・ソチエル(仏語翻訳者):
20年前は順序通りになっていないシンプルなテキストファイルで翻訳をしていたため、どのテキストがどこに使われるのかを解読するような作業が必要でした。今日でもまだ完璧に順序だった作業ではありませんが(多分ゲーム開発はそういうものでしょう)、強力な検索機能や便利な機能を備えたローカライズツールのおかげでだいぶ楽な作業になりました。

上田訓子(ローカライズPM):
昔と比較して、現代では世界同時発売は当たり前になってきていると感じます。しかしながら、開発中の段階から翻訳や収録を開始しているため、途中で日本語(原語)の調整や変更が多々発生し、それらの変更を追いながら決まっている発売日までに対応することはとても大変でした。本プロジェクトにおいては、部内で開発したByblosという翻訳管理ツールを使用しました。これを使用したことにより、日々日本語に入った調整を追ったり、各言語のボイスもツール内で確認することができたり、各言語の全体進捗を管理することができました。

●オリジナル版の『FFVII』には名セリフが沢山あると思いますが、特に原作を意識した上で翻訳されたセリフはありますか?

ベン・セイビン(英語翻訳者):
本作は原作とは違ってキャラクターのボイスがあり、また一部のシーンは原作と異なるものになっているため、すべてのテキストをそのまま使用することはできませんでした。ただ、バレットがプレートを「腐ったピザ」と呼ぶような象徴的なセリフや、コルネオの寝室でクラウドたちが言い放った脅し文句のような原作ネタは残すことができました。

ローラン・ソチエル(仏語翻訳者):
オリジナル版『FFVII』が発売された当時と比べると、現在求められているローカライズのレベルが格段に上がったため、原作にできるだけ忠実であり続けたいと思いつつも多くの変更を加える必要がありました。原作フランス語版のユニークな翻訳を本作に小ネタとして含めることも検討しましたが、原作を未プレイの方にも分かるような内容でないとならないため、簡単な作業ではありません。

川又ディアナ(独語翻訳者):
オリジナル版で音声がなかった上で日本語の尺に合わせる必要性がありましたが、できる限りに原作を意識しながらドイツ語の自然な文章に翻訳する事に努めました。

●これは我ながら良い翻訳、と思うものがあったら教えてください。

ベン・セイビン(英語翻訳者):
英語翻訳チームが考案した最高のセリフの1つは、ティファがドン・コルネオの屋敷でクラウドのドレス姿について尋ねたときのクラウドの「Nailed it, I know. Thank you. Moving on.」(*訳注1)です。クラウドの心情を的確に表していますし、声優のコーディ・クリスチャンの演技も素晴らしく、クールに決めようとしつつもついつい地が出てしまうクラウドを表現できていると思います。全体的にコメディタッチで、ユニークで個性的なキャラクターがたくさん出てくるコルネオ関連のシナリオにも合っています。個人的にはレノの導入のセリフ「I'll see myself in, thanks.」(*訳注2)が彼の性格を物語っていて気に入っています。

*訳注1:日本語の原文は「感想はいらない 他に方法が無かった」。「Nailed it, I know. Thank you. Moving on.」は直訳すると「キマってるだろ、わかってる、ありがとう、はい終わり」という感じで、恥ずかしくて矢継ぎ早に話を終わらせたいクラウドの様子がよく表れています。

*訳注2:日本語の原文は「邪魔するぞ と」。例えば友達が家を訪ねてきたけど、今手が離せない……という時の「勝手に入っちゃって!」=「See yourself in!」という英語表現があります。これを自ら言ってしまうのがレノのセリフ「I'll see myself in, thanks.」なのです。確かに、強気でマイペースな彼の性格をよく表しています。

ローラン・ソチエル(仏語翻訳者):
特に気に入っている翻訳を選ぶのは難しいですが、多くのプレイヤーの心に残っているように思う翻訳が1つあります。「フィーラー」と呼ばれる奇妙な飛行体について話すとき、日本語版では「ウジャウジャ」という言葉を使っていますが、フランス語版ではこれのことを「serpillières」(ぞうきん)とバレットに呼んでもらうことにしました(具体的でふさわしい名前だと思います)。

●最後に、『FFVII リメイク』発売後の反応への感想や、ファンに向けてメッセージをお願いします。

ローカライズチーム一同:
何年もファンが待ち望んでいたゲームに携われて大変光栄でした。紆余曲折もあり大変な道のりでしたが、各言語のチームが全力で挑んだ作品が結果的に翻訳だけでなく、それぞれのボイスに対しても多くの称賛をいただき、苦労が実を結んだことを嬉しく思います。もちろんどんなものも「完璧」なものはないと思います。今後もいただいたご意見などを踏まえ、より良い作品になるよう努めていきます。



『FFVII リメイク』ローカライズチームの皆様、ありがとうございました!

日本語版の『FFVII リメイク』でも、音声や字幕を英語に切り替えて遊ぶことができます。これを読んで英語ローカライズが気になった方は、言語を切り替えて遊んでみてはいかがでしょうか?

『ファイナルファンタジーVII リメイク』公式ページ
https://www.jp.square-enix.com/ffvii_remake

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