
2025年4月27日に発売から35周年を迎えた『FFIII』。
それを記念して、2006年8月24日に発売された3Dリメイク版プロデューサーの浅野智也さん(以下、浅野)と、FC版/3Dリメイク版の両方で開発に携わった田中弘道さん(以下、田中)に3Dリメイク制作当時のお話をお伺いしました!

本日は『FFIII』の発売35周年ということで、3Dリメイク版をご担当されたお二人にリメイク当時のお話をお伺いできればと思います。よろしくお願いします。
早速ですが、『FFIII』を3Dリメイクするというのはどういう経緯で始まったものだったのでしょうか?
浅野:始まりのところは田中さんからでしたね。
田中:ちょうどニンテンドーDS向けに「ファイナルファンタジー」を出したいという話しがあって、色々な検討をしていった結果、『FFIII』はどうだろうかという話しになったんだったかな。
『FFI』『FFII』は別ハードに出たりしていたけど『FFIII』は出ていなかったので。
浅野:『FFIII』のリメイクを作ると聞いて、私の最初のゲーム体験が『FFIII』だったこともありとても興味がわいたのを覚えています。『FFIII』は今でも大好きなゲームの一つです!
田中:当時は『FFXI』を担当していたこともあって、リメイクを自分で担当するのが難しい状況がありました。それで他に担当を立てて、自分はフォローに回る形で進めようとなったんですよね。
浅野:自分はもちろん担当したい気持ちはありましたし、当時の若手プロデューサーの間では誰が担当することになるんだろうと相当ざわついてましたね(笑)。結果的に自分が担当することができて、とても光栄でした。
リメイクプロジェクトはそのようにして立ち上がったんですね。田中さん、浅野さんは開発を始めるにあたってどのように進められたのでしょうか?
浅野:自分は『鋼の錬金術師』のゲームを作ったあとで、『FFIII』のリメイクを担当することになりました。最初に考えたのが、どこの開発会社さんにお願いしようかというところで株式会社マトリックスさんにお願いすることになったんです。
田中さんからはリメイクするにあたって、こういうゲームにしようという箇条書きのテキストで10か条を頂いたのを覚えています。そこの一番上のところにあったのが、キャラクターには名前を付ける、という物でしたね。
田中:そういえばそういうものを作りましたね。FC版ではキャラクターはみんな光の戦士ということで、それぞれに名前や個性がなかったんですよね。それについては当時、色々なご意見いただくこともあったりして、自分としてはそこまで意識してたわけではなかったんですが、Ⅳ以降の「FF」がすべてキャラクターに名前があるストーリーになっていったということもありせっかく、リメイクするならそこは「ファイナルファンタジー」として入れていこうと思いました。




リメイク版で大きく変わった部分だった、キャラクターに名前と個性を持たせることは最初から決めていたんですね。
田中:そうですね、当時の最新ハードだったニンテンドーDSで最高のゲームを目指して『FFIII』のリメイクを作るというのが出発点で、キャラが個性を持つこともそのポイントに入れていました。
浅野:10か条の中に、3Dでゲームを表現する方法についても書いてありましたね。田中さんからご紹介いただいた相場良祐さん(『FFXI』のアートディレクターなどを担当)が設計図のようなものを作っていて、書割をこのように並べるといい感じに奥行きが表現できて、というような物でした。自分は設計図だけではわからなかったのですが、マトリックスさんが作ってくれたものをみて、なるほど!となりました。その後のHD-2Dの表現に繋がってくるものがあったと思いますね。
田中:アートディレクターは吉田明彦さん(『FFタクティクス』や『FFXII』などのキャラクターデザインを担当)が担当してたよね。
浅野:ゲーム内キャラクターのプロポーションは相場さんが作成されましたね。吉田さんは少し後にご参加いただいて、キャラクターや全体のアートをご担当いただきました。相場さんにも引き続きグラフィックデザインのレクチャーをいただいたりしていました。




主人公であるルーネスたちの名前は誰が考えた物だったのでしょうか?
浅野:これは田中さんですね。名前を考えて、それを検索した時にヒット数が10件以下しか出てこないものなるべく採用すべき、ということで決めたと記憶してます。
田中:それは今でも自分が担当するタイトルの命名規則の鉄則ではあります。ただ候補は出してもらったような気がするんだけど…。
浅野:そこは私からは出してなかったと思います。私は田中さんからいただきましたよ。
田中:自分にそんなネーミングセンスがあったとは思えないんだけど(笑)。
キャラクターに名前や設定が付いたことで特に序盤のシナリオや展開に変化が出たと思います。新規で描かれることになったキャラクターの背景などはどなたが考えたのでしょう?
浅野:シナリオ部分は自分が預かって、ライターさんと一緒に作っていたのですが、それほどキャラクターにバックボーン(背景)はついていないと思うんですよ。
田中:FC版ではゲームが始まったらすぐ、4人のメンバーを操作してストーリーが始まっていたけど、名前がついたことで順番に紹介していく必要があったのは確かですね。
浅野:当時は精一杯でやってましたね(笑)。キャラクター性を付けると言っても、元々の物があってその上で考えるものだったので、そこまで大きく変わるのも違うよね、という感覚でした。お話の根幹に入れようとすると別の物になってしまうので。
田中:始まりと終わりだけだよね(笑)。
浅野:オープニングとエンディングだけですね(笑)。
田中:当時ボツになった企画としては、メンバーの好感度で会話が変わるのはどう?みたいな話もありましたけどね。結果やらなかったんですけど、やっぱりプレーヤーさんの感情を反映しない会話っていうのは違うよねっていうことで。




システム的な部分についてリメイクで気にされた部分はありますか?
浅野:『FFIII』はジョブチェンジのシステムが特徴だったと思うんですが、ゲームバランスのところで、ジョブの強弱によって使われないジョブができるだけ生まれないように、というところは気にしていました。全ジョブが最後まで使えるように調整して田中さんに確認してもらって、強いジョブは強くていいんじゃない?といったコメントいただいてましたね。
田中:当時担当していた『FFXI』でもジョブごとの強弱の議論はあって、オンラインのゲームだとそれほど簡単には語れない部分だけど、オフラインゲームであればジョブチェンジして組み替えるのも楽しみじゃない?っていうところはありましたね。
3Dでリメイクされたことで印象が変わった点、気にした点などありましたら教えてください。
田中:もうDS世代になるとハードウェアの設計思想上、キャラクターは3Dで表現するものと思っていたから、そもそもドットでリメイクするという考え方はなかったですね。
浅野:当時を考えるとかなり細かく作ったなと思ってびっくりしますね、改めて見てみると。画面を緻密に構成するというか、情報量が多い作りになっていたなと。
田中:そういう作りは相場さんらしい気がしますね。
浅野:ただ、問題もやはり出てきてしまって、FC版の時はモンスターが6体とか8体とか同時出現していたんです。でも、6体とか出せなくて青ざめた記憶があります(笑)。
結果的にはどうなったんですか?
浅野:小さいモンスターはもちろん6体でたりするようにしたんですが、出ないものは出ないので、ここもバランスの話になりますが、1体を強くするみたいな調整をしましたね。この辺りは青木和彦さん(FC版『FFIII』でモンスターのデータやネーミングを担当)が協力してくださいました。
すごく細かく見てくださって、このモンスターのこの数字をあと1あげてください、とか。それで変わるんだ、みたいな感じで。あと、ヒット数の問題もありましたよね。
田中:これはFC時代の『FFI』からあった問題なんだけど、ヒット数が1から2に上がるといきなり倍になっちゃう。ここはもう少しちゃんと計算式を作ればよかったなと(笑)。
浅野:1から2は2倍、2から3は1.5倍、当たり前と言えば当たり前なんですけど、最初の段階がとても大きな差になっていたんですよね(笑)。
田中:このあたりは新入社員だった河津秋敏さんが大学時代ボードゲームサークルに所属していたこともあって、バトルの基本設計がボードゲームで使うサイコロの考え方だったんだよね。
浅野:リメイクの時にはもちろんこの点は調整しましたし、ここも青木さんが担当してくださいました(笑)。
田中:FC版の『FFIII』で青木さんがデータを作った時に、敵が強くなるとHPも防御力も上がってどんどん固くなっていくのを、なるべく防御力はそのままでHPだけあげていくように変えてもらいました。プレーヤーのストレスを減らして爽快感が増すような調整でした。
浅野:リメイク版でも青木さんが細かいところまでご調整してくださったので助かりました。


浅野さんとしては、田中さんもそうですがそういった開発者の方々とお仕事をしてどう感じましたか?
浅野:もちろん開発会社の方々とはお付き合いもあったのですが、社内にいる開発の人たちとお仕事したのはその時が初めてでとても勉強になりました。相場さんの設計や吉田さんのデザインもすごいと思いましたし、青木さんのパラメータ調整も、自分もチェックしてちょっと強いとか弱いみたいな感覚的な話はしてましたが、こういう風に作っているんだという細かいところまで知る機会になりましたね。
その他、開発当時の出来事として印象に残っている出来事などはありましたでしょうか?
浅野:田中さんはいかがでしたか?あの時は見知らぬ若者が急に押しかけてきた感じでしたよね(笑)。
田中:自分では作りきれないと思っていたから、その10か条と資料を渡して、その時に自分が思っていることは伝えたし、後は任せたという感覚でしたね。
浅野:最初の頃はかなりの時間お話はしていただきましたよ。あそこはこうしたいんだとか、ここはこうじゃないとダメだよね、とか確認してました。
田中:キャラクターの名前とかクリスタルタワーのセーブポイントの話とかはしましたね。自分的に引っかかっていた部分はどうしたらいいんだっけ、という確認はしました。
浅野:セーブポイントについては本当に最後まで相談してた気はしますね。結局置かないことになりましたが(笑)。
ここまで色々とお話をお伺いしてきましたが、『FFIII』のリメイクに携わったことで今に繋がっているなと思うところはありますか?
田中:こういったところで浅野さんとお話ししたり、関わった人たちと今も一緒に仕事をしていること、そういった繋がりができた作品だったなと思います。
浅野:大好きだった『FFIII』のリメイクに関わってゲーム制作の多くを学びましたし、『FFIII』のリメイクは自分の物作りの土台にあるタイトルの一つだと思います。
その後も『FFIV』3Dリメイク版、『光の4戦士』とDSで3Dの「FF」シリーズ制作に関わることになりましたし、自分としてはDSでのゲーム制作の集大成と思って作った『ブレイブリーデフォルト フライングフェアリー(BDFF)』というタイトルに繋がったのかなと。
自分はずっとジョブチェンジとアビリティのゲームを作ってきたんだなと思いました(笑)。
田中:FC版『FFIII』の時にジョブチェンジのシステムは入れたいと思って入れたんだけど、『FFXI』の時にサポートジョブっていうシステムが生まれて、ジョブのシステムは調整がすごく難しいと思いましたね。


浅野:自分が子供の頃の感覚として『FFIII』のジョブチェンジのシステムが好きだったんですよね。
田中:当時の「転職」のシステムはハードルが高いものが多くて、そこまでの成長がリセットされてレベル1からもう一回、みたいな。そこを引き継げるようにしたいという気持ちで、もっと手軽な物にしたいなと思っていました。
浅野:自分のゲーム体験の原点にジョブチェンジがあったのは確かですし、それが今の制作に大きく影響していると思います。
それでは最後になりますが、お二人の近況と読者の皆様にメッセージをお願いします。
田中:浅野さんと『FFIII』リメイク版を制作した時みたいに、今も若い人たちと一緒にゲームを作っています。近いうちに何かしらお届けできるように頑張っていきたいと思いますのでよろしくお願いします!
浅野:『FFIII』リメイク版で学んだことをベースに制作に臨んだ『BDFF』HDリマスター版がSwitch2で発売中です。『FFIII』ともどもこちらもよろしくお願いします!
ジョブチェンジもあります!
本日はありがとうございました!
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この機会にぜひ『ファイナルファンタジーIII』をお楽しみください!