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  • 2021.03.16

『ファイナルファンタジーXIV』ローカライズチームインタビュー!前編


全世界累計登録アカウント数が2000万 (※)を突破しているMMORPG『ファイナルファンタジーXIV』ですが、この規模のユーザーベースを支える背景には様々な言語へのローカライズ対応があります。

今回FFポータルでは『FFXIV』のローカライズチームにインタビューを実施し、英語、フランス語、ドイツ語の各翻訳者とローカライズプロジェクトマネージャーに、『FFXIV』を世界中に届けるためのお仕事についてお伺いしました!

前編では『FFXIV』のローカライズチームの体制や、『FFXIV』ならではのこだわりなどについてお話を伺います!

※2021年2月時点、日本・北米・欧州・中国・韓国の5リージョンの累計アカウント数。フリートライアル版のアカウントを含む。

【回答者】
- Kathryn Cwynar(キャサリン・スウィナー(ケイト)/世界設定サポート&英語翻訳者)
- Pierre Pasquier(ピエール・パスキエ/仏語翻訳者)
- David Fehrmann(ダヴィド・フェルマン/独語翻訳者)
- 塩田 麻希(ローカライズプロジェクトマネージャー)

●『FFXIV』のようなMMORPGのローカライズは、一人でプレイするタイトルと比べてどのような違いがあるのでしょうか?また、『FFXIV』のローカライズは何人くらいの体制で行っているのでしょうか?

ダヴィド(独語翻訳者):
オンラインゲームはパッケージと違い、ストーリーや世界がどんどんと広がり、年々進化をしています。毎回のアップデートで新しいコンテンツやシステムが追加され、ある意味ではどんどんと物語や設定の厚みが増しているともいえるかもしれません。今後の運命を左右する敵と出会うような大規模なイベントから、どちらかというと小規模な建物やエリアの名前まで、それを見たプレイヤーが、この進化し続ける世界をどのように捉えて、遊んでくれるか……これを考えながら翻訳をするのはとても楽しいことでもありますが、同時に、非常に難しく気が遠くなることもあります。
また『FFXIV』というゲームは、1名の決まった主人公のためだけに世界が作られているのではなく、いろいろな考えを持つ何百万人もの主人公が存在している世界です。しかしそんな環境でも、1人1人のプレイヤーが唯一の存在で、世界を救うためのキーパーソンであると感じられるように設計がされています。1人の名前や性格の決まった主人公ではなく、複数プレイヤーとのチームワークで完成するコンテンツを描くことは簡単なことではありませんが、全てのプレイヤーに自分がこの世界の唯一の存在であるという感覚を感じてもらいながら、ほかのプレイヤーとの交流や連携をしてメインストーリーやコンテンツを進めていくという点では、『FFXIV』はとてもよくできていると感じています。

塩田(LPM):
現在『FFXIV』ローカライズチームには常に英独仏の各言語翻訳者5~6名の翻訳者が所属しています。拡張パッケージなどの繁忙期のタイミングでは一時的に増員を行う場合もあります。
他チームとの一番の違い……たくさんありますが、強いて言うなら、ずばり『団結力』でしょうか!(笑) 『FFXIV』というプロジェクトの性質上、ローカライズ、QA、サウンドなどのチームが新生前からずっと一緒にお仕事をしているので、自然と団結力が強まっています! 例えば他のプロジェクトだと、ローカライズが本稼働してから長くても2,3年でプロジェクトが完了して、別のプロジェクトにアサインされるのですが、『FFXIV』ローカライズチームの場合、ほとんどの方が10年以上『FFXIV』に携わっています。今年は感染拡大防止の観点から出来ていませんが、ほぼ毎パッチの作業完了後にお疲れ様会と称して、『FFXIV』ローカライズのみんなで集まって食事をしたりしています。なので、他のチームには団結力で負ける気がしません!(競っていませんが 笑)

ケイト(英語翻訳者):
特に『FFXIV』は日本のゲームローカライズでは珍しいくらいのチームワークの良さがあるので、世界設定やUI、カットシーンなど、その他いろいろな開発チームと継続的に話し合いを行うことができます。例えば実装前の段階でローカライズ版における落とし穴を見つけたり、翻訳をしている内容に関する理解をより深めたり、開発チームからの翻訳に関する質問に直接答えたりしています。そういう意味では正確に何人のメンバーがローカライズを支えているか明言するのは難しいほどです……。

●なるほど、『FFXIV』のローカライズは開発チームと密接に連携して進められているのですね!もっと具体的にはどのように作業を進めているのでしょうか?

ケイト(英語翻訳者):
日本で直接一緒に仕事をするのは、イベントチーム(世界設定やストーリーの担当者)とカットシーンチームがメインです。その中でも、私は世界設定の担当者と一緒に世界設定や命名のチェックをすることが多いです。ファイルを送ってコメントを記載してもらうことも多いですし、フランクにチャットツールで質問したり、アイディアを話し合ったり、炎系の攻撃が多すぎて同義語が思いつかなくて一緒に悲しんだりしています。
メインシナリオの台本の翻訳や音声収録となると、各言語の担当者が担当ライターと打ち合わせをして、NPCのモーションと合うセリフの秒数を相談したり、全言語で1セリフの長さが同じ時間になるように、脚本や演出を調整する必要があるのかなどを確認したりしています。

●開発から依頼されるテキストを翻訳するということ以外に、ローカライズチームから開発への働きかけのような動きをすることはあるのでしょうか?

ダヴィド(独語翻訳者):
英語チームがアクションや地名などの命名の作業に参加しているように、ローカライズチームはさまざまな文化圏のアイディアを用いた、新しいモンスターのアイディアやコンセプトを提供することもあります。また、いろいろな文化圏のプレイヤーが一緒に遊んでも間違った理解や、不愉快な思いをさせないように確認を行い、日本国外で起こりうる問題点を指摘することもあります。

ケイト(英語翻訳者):
ボス、技、キャラクター、土地、クエストタイトルなどの名称についてはよく、開発側が決めてくれた情報をもとにアイディアを出しています。実際のどのくらいの人が気づいてくれているかはわかりませんが、自分のアイディアがゲーム内に反映されているのを見ると「やったー!ちゃんとお役に立てた!」と喜んだりしています。

●『FFXIV』ローカライズチームの作業の流れがイメージできたところで、よりタイトルに寄った具体的な質問をさせてください。最初のキャラクター作成画面の種族やジョブ、守護神等の説明を見ただけでも『FFXIV』特有の用語が山ほど出てきます。そんな広大な世界観を持つタイトルならではの苦労はありますか?

ピエール(仏語翻訳者):
最近の苦労といえば一貫性を保つ事でしょうか。今までとこれからの『FFXIV』の世界観をすべて把握して、詳細を記憶することは困難です。そのため、新しい翻訳に取り掛かるときはいつも、以前自分たちで書いたことや、翻訳したことを遡って確認しています。『FFXIV』のような長い間遊ばれているゲームに取り組むということは、過去のテキストとの整合性を確認しながらの作業になるため、時間がかかってしまうこともあります。

ダヴィド(独語翻訳者):
世界設定と新規テキストの一貫性を保つことは、翻訳の品質を図る1つの指標になると考えています。もちろん翻訳者の経験も非常に重要ですが、『FFXIV』の世界は非常に広大なので、どんなに優秀な翻訳者でも全体を正しく把握するのは時間がかかりますし、覚えておくことも大変になります。翻訳者チーム内で翻訳内容のチェックをしたり、欧州にいる優秀なエディターやQAチームも、そのような点をしっかり意識しながらチェックをしています。

ケイト(英語翻訳者):
実は新しい翻訳者さんにチームに合流していただいたり、ほかのチームからヘルプで入ってもらったりするのも『FFXIV』においては大変なのです。なぜなら十分な『FFXIV』の知識を持っていて、その翻訳スタイルを真似る能力と意欲のある翻訳者というのはなかなか探しても見つけられないからです。「7年分以上のMMOコンテンツをプレイして全部暗記しといて。あと、締め切りが近いから急いで!」といったようなことは、着任初日に聞きたくはないでしょうし……。 開発と翻訳者間、翻訳者同士間では、たくさんの世界設定に関する質疑応答をしています。例えば1度新しい言葉や設定を作ってしまうと、その設定はこの先ずっと使うことになりますし、間違った設定をしてしまうとこの先ずっと後悔することになります。

●『FFXIV』では他のゲームやIPとのコラボコンテンツも見かけることがありますが、普段のローカライズと違う点はあるでしょうか?

ピエール(仏語翻訳者):
アクションや地名など、コラボ先のゲームの要素について的確な用語を使う必要があります。また、コラボ案件を担当する翻訳者はそのゲームのことを知っている必要があります。例えば、『NieR』シリーズをプレイしたことがない人に、ヨコオタロウさんの作品をベースにした翻訳を依頼することはできません。あとは、『FFXIV』と『FFXV』のように、まったく違う世界のゲームが同じ世界で登場するときは、どちらの世界観にも違和感がないように特に気をつけています。

●定期的なコンテンツの追加があることが『FFXIV』のローカライズの一つの特徴ということでしたが、これについてもう少しお話を伺いたく、例えばアップデートスケジュールに間に合うよう効率化のために行っていることはありますか?

ダヴィド(独語翻訳者):
基本的なワークフローは同じです。コンテンツの仕様やシナリオの内容、カットシーンの雰囲気を確認、把握して、翻訳をして、校正をして、QAをするという流れです。このサイクルを『FFXIV』の場合は永遠に繰り返しているようなイメージです。

ケイト(英語翻訳者):
翻訳プランや翻訳者みんなの努力があっても、永遠に続く翻訳スケジュールの中で、世界設定開発のプロセスをこなすことは、同時に大量の皿回しをしているような気分になることがあります。ゲームテキスト以外の依頼(パッチタイトル、Lodestone関連、世界設定本、サウンドトラックのコメント翻訳、ノベルティや商品名の翻訳など)がかなりの量になるので、どれだけ事前にスケジュールを細かく組んでも、計画通りに進められることはほとんどありません。その時に可能な範囲で対応をしてしのいでいます。

●FFの他のナンバリングのローカライズを見て(ゲームプレイして)気にしたり、参考にしたりすることはあるのでしょうか?

ピエール(仏語翻訳者):
過去の翻訳の中には非常に有名なものもあるので、時々、参考にさせて頂く事は有ります。もちろん、『FFXIV』の世界観を崩さない事が前提ですが。

ケイト(英語翻訳者):
日本語では様々な場面で他のFF作品を元ネタとした要素を『FFXIV』に組み込んでいますが、ローカライズするときもそのような元ネタを活かすよう作業しています。それ以外に何か独自の判断で元ネタのある要素を入れるようなことはしていません。もしかすると後々ほかのクエストや、ライターさんが同じネタを使ってしまう可能性もありますし、避けておくのが安全です。 もう少しざっくりした内容でローカライズのスタイルという話をすると、他の「書く」という作業にも共通する事ですが、翻訳者が長年の経験の中で読んできた他の翻訳文や原文資料に加え、その人の個性や好みにスタイルは影響を受けています。私たちの場合、個々のスタイルは『FFXIV』全体のスタイルにも合わせて調整されています。このため、他のゲームからインスピレーションを得る余地というのはあまり有りませんが、もしかすると無意識に私たちの翻訳のどこかに影響が出ている可能性はあります。

●チャットで定型文を外国語に翻訳して送れるツールがあるなど、『FFXIV』は言語の垣根を越えて遊べるようになっていますよね。こうした違う言語を話すプレイヤー同士でも一緒に遊べるMMORPGならではのローカライズの挑戦はあるでしょうか?

ピエール(仏語翻訳者):
挙げていただいた通り、ゲーム内で使用する言語が異なるプレイヤーさん達が、ダンジョン攻略のためなどのコミュニケーションを行うために使用できる、便利なツールが存在しています。それ以外の部分では、アクションやツール、インターフェース名などシステムに関連した用語はローカライズ(文化圏を考慮した言葉の変更)を行わず、意図的に日本語の直訳をして、プレイヤー同士のコミュニケーションミスが起こらない翻訳を極力心がけています。

ダヴィド(独語翻訳者):
レイドのような特定のコンテンツにおいては、私たちの翻訳に大きな違いが出ないように他の言語と密接に連携して作業に当たる事があります。恐らく海外プレイヤーの大多数の人は英語を前提としてチームを組みますので、コンテンツのカギとなるギミックなどは、ドイツ語は英語表現をよく参考にしています。
しかし、基本的には日本語からドイツ語に直接翻訳をしています。まれに熱心なプレイヤーに英語版とドイツ語版の違いを指摘されることがあります。もちろん、このこと自体に問題は無いですし、そこまで関心を寄せてくださることは有難いことです。しかし、日・独・英の3言語で共通する表現が存在することもあれば、日本語がラテン言語と1:1で対訳できない言語であるが故に、まったく同じように伝えられないケースもあります。さらには、私たちは日本語から翻訳をするうえでも文化的背景などを考慮するようにしていて、本来のキャラクター性やストーリー性を伝えるために、あえて日本語の直訳を行わない事もあります。

●上記の質問に関連して、そもそもグローバルに向けたタイトルということで他タイトルに比べてローカライズがしやすくなっている(日本向けに作られていない)などはあるのでしょうか?

ケイト(英語翻訳者):
『FFXIV』ローカライズの理念である「全プレイヤーに同等の体験を」と、グローバル性を意識した開発チームの配慮は、ローカライズチームの大きな助けになっています。プロデューサー兼ディレクターの吉田さんや世界設定/メインシナリオライターの織田さんのように、このプロジェクトに携わっている方々は、誰よりもローカライズの仕組み、可能性、価値についてしっかりと認識されていて、私たちの仕事を信頼してくれています。
また、英語をネイティブ言語とする方が不快な思いをするとわかっている内容を黙って翻訳するのは私たちの仕事ではありません。ストーリーで伝えたい内容を何かの理由で正しく翻訳できないような場合、すぐに開発チームと話し合いを行い、一部の言語、もしくは全体的に変更をしていただくこともあります。英語ゲームの市場で『FFXIV』が受け入れられているということを見ても、このようなプロセスで工夫を行うことがプレイヤーにとっても良い効果があるということを示せていると思います。

ピエール(仏語翻訳者):
『FFXIV』では常に開発と翻訳が行われていますので、改善すべき点があればいつでも開発チームに提案することができます。そして次のパッチは常に予定されているので、私たち(またはフォーラムの熱心なファンの皆様!)がなにか間違いを見つけた場合、間違いを修正することができます。私たちが気づかないようなこともあるので、何百万人もの目でチェックしていただくのはいつも助かっています!




『FFXIV』ローカライズチームの皆様ありがとうございました!

後編では『FFXIV』の世界やキャラクター、独特な文化的ニュアンスに関するローカライズのチャレンジなどについて、さらに掘り下げてお話を伺います!

『ファイナルファンタジーXIV』ローカライズチームインタビュー!後編はコチラ

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